第2章 出会い
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二人の会話を聞いていた葵は驚きと申し訳なさで声を上げそうになった。自分の白はそんなに綺麗なものではない。殺めた事こそないが、白の為に黒に染まったことだってある。その黒を忘れようと何度も、何度も白を分厚く塗り重ねていただけだ。守って貰う程価値のある白じゃないと叫んでしまいたかった。
だが、言ったところでどうにもならないと唇を噛み締める。今の自分に出来ることはこれからも5歳児で居続けることだけなのだと。
─私は…わたしは絢瀬葵。
暗示をかけるように心の中で唱え続ける葵の肩にそっと手が置かれた。気持ちを切り替え目を開けた葵の視線の先には、先程とまるで違う顔の女がいた。
ウェーブのかかった金髪は胸元まで流れ、瞳は緑に輝いている。整いすぎるほどの美貌を前にただあんぐりと口を開ける少女に予想通りだと安室は一人肩を揺らした。
悪戯が成功したと言わんばかりの笑みを浮かべるベルモットが少女の耳元へと手を伸ばす。驚きつつもその手が届く前に耳栓を外した葵が口を開いた。
『お姉さん…ベルモットさん?』
「そうよ。クリスって呼んでちょうだい」
『ん。あのね、クリスも魔法使いだったんだね…』
キラキラと瞳を輝かせる子供の耳に、ふっと笑う声が届く。体ごと声の方向を向いた葵と運転を再開した安室透の瞳がバックミラー越しに絡んだ。細められたその瞳に怪しむ色が皆無なことに安堵と少しの罪悪感を覚えた。
「ふふ、秘密にしてね?」
人差し指を唇に置きながら微笑むその姿もひと際美しく、高鳴る胸を押さえたまま葵は暫く赤べこと化した。
それから暫く表面的には和やかに話す二人をニコニコと見つめた。そしてベルモットと別れた安室が車を停止させたのは日が傾いてきた百貨店の駐車場だった。
「さて葵ちゃん、僕は安室透といいます。今日から僕と一緒に暮らすんだけど、大丈夫かな?」
安室から紡がれる柔らかい音に和みながら葵は思考に溺れた。
紆余曲折あったが結果的に警察官に保護され、一先ずの目的は達成できたと及第点を与える。
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