第2章 出会い
「理由を聞いても?」
「この子は親に捨てられて間もないっていうのに、眩しいくらい白くて綺麗で…葵の隣は心地がいいのよ。だから白いまま育ててくれるのは誰かって考えて消去法で貴方が残ったってだけよ。」
「僕と暮らしても黒くならない保証はありませんよ」
自嘲するような笑みを浮かべる男を視界の端に入れたベルモットは一度大きく息を吐いた。べリッという音と共に変装を解いたのをミラーで確認した安室は隣で俯く葵へと視線を移す。目を開いたら隣に別人がいるなど自分なら経験したくはないが、せざるを得ない少女の反応が気になった。
ずれた思考を戻したところで外へ向けられていた緑の瞳が安室を捉えた。
「そんなことわかってるわ。時が来るまででいいの」
「時?」
「今は何となくでも、何れ両親に捨てられたことをきちんと理解する日がくる。その時が来ても白くいられるように出来るだけ守りたいのよ」
その真剣な目に驚きを感じ息が詰まる。次いで、少女の何が彼女をそうさせたのか俄然興味が湧いた。再び葵に向けられた蒼は細められ、口元には笑みも浮かんでいる。
眉を顰めたベルモットがシートを軽く蹴った。
「なに笑ってるのよ?言っとくけど、組織にバラしたら殺すわよ」
「そんなことしませんよ。まだ死にたくありませんから。それより、話が終わったなら彼女を解放しては?」
「そうね...美紀」
葵の肩に手を乗せて名を呼ぶベルモットの声はとても温かい。色に例えるならば朱色やオレンジといったところだろうか。
とりあえず、この少女に関してはベルモットを信じても問題はないと降谷は判断した。彼女が黒への道を塞き止めている間に、その道を自分が白く塗り潰して仕舞えばいい。そんなことを考えながら運転を再開する為、外していたシートベルトに手を伸ばした。
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