第8章 決意
『博士ー!こんにちはー!』
「おお!葵くん」
『何か作るの?皆が帰ってくるまでお手伝いするよ!』
「いやいや、大丈夫じゃよ。実は学校が早く終わったらしくてのう。いつもの場所でサッカーをしていると伝言を頼まれたんじゃ」
『そうなの?じゃあ行ってくる!』
「荷物は置いて行って構わんよ」
『ありがとう!行ってきまーす!』
「気を付けるんじゃぞ!」
キッチンに立つ博士に手を振り駆け足で向かうと、そこには見慣れた五人の姿が。灰原が盛大に尻餅をついたのを視界に入れ走るスピードを上げた。
『哀ちゃん!大丈夫?』
「葵ちゃん!」
「やっと来たか!おせーぞ!」
「大丈夫よ、ありがとう。この仔がボールの側に飛び出して来たから蹴れなくて…」
ニャーと愛らしい声の主は背にハートの模様がある首輪付きの三毛猫だった。灰原が持ち上げると同時にチラッと確認して雄である事に驚く。
三毛猫の雄を放し飼いとは凄い飼い主だ…自分なら室内でしか飼えない。
「大尉じゃねーか!」
「お前その猫知ってんのか?」
「ああ!」
コナン曰く元飼い猫の野良猫でポアロに餌をねだりに来ているらしく、大尉という名もそこで付けられたのだという。
しかし大尉の顔を見ていると今頃必死で探しているであろう見知らぬ飼い主が浮かんで"あはは"と乾いた笑みが零れる。
その内に何かに反応したのか手から逃れ勢いよく走り出した猫の爪に灰原の服の毛糸が引っ掛かる。
「あの仔何処へ行く気かしら?」
「ヘタに道路に出て車に轢かれたら大変ですよ!!」
『(確かにそれは大変だけど、哀ちゃんの毛糸が解けるのも大変だと思う…)』
これについては直ぐに何とかしなければならない事ではないが、一人二重に心配を抱えて毛糸を辿る。
『あ!あそこ!』
「ホントだ!車の後ろ!」
「中に入りやがった!!」
急いで近付き中を覗くとひやりと刺す冷気に連れ出さなければと飛び込んだ。先頭を歩いて奥の荷物の隙間で顔を洗う猫に手を伸ばした時、バン!と大きな音と共に辺りが暗くなる。
どうやら配達業者が扉を閉めて閉まったらしい。仕方なく次に扉が開いた時に出してもらうということになり、暫く揺られる羽目になった。
この時はまさか先程の心配が現実のものになるなんて考えてもいなかった。
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