第7章 伊豆へ!
『…え?テニス?』
「ああ。毛利先生にお願いされたんだ」
『透くんテニスするの?』
「中学以来だから大分鈍ってるかもね」
にこにこと笑顔のまま伊豆へ行こうと告げた安室が席を立ち、手に何かを持って戻ってくる。
「はい。葵ちゃんのだよ」
差し出されたのはワンピースタイプのテニスウェアと靴下。
買わなくてもそれっぽいのを見繕えば良かったのではと思うも、変わらず楽しそうな安室を見て早々に諦め礼を言った。
そうして車に乗り込み揺られること数時間。
やって来ました、伊豆!
ウェアに着替えコートに行くと既に安室が数人の女性に囲まれており、苦笑と共に溜め息が零れた。
彼も同じ顔をしているが、安室透の性格では突き放すことが出来ないのだろう。
葵に気付いたのか歩き出した彼を助けるべく駆け足で近づいていく。
『パパー!』
「!」
「おいで、葵」
囲んでいた女性たちが葵を視界に捉えるより先に安室が膝をつく。
ひょいと抱き上げると、固まっている女性たちに向き直った安室は人好きのする態度で口を開いた。
「すみません。娘とテニスをする約束をしているので」
"他を当たって下さい"と有無を言わさぬ笑顔で告げれば、彼女たちは頭を下げて去っていった。
「ありがとう。助かったよ」
『いーえ!』
"パパって嬉しかった"と目を細める安室に抱き付けば、くすくすと彼が笑う。
穏やかな時間を過ごし、気を取り直してテニスを始めた。
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