第6章 日常…?
「その後は、…沖矢さんと出掛けたんだっけ?」
僅かに低くなった声に、ひくりと口元が引き攣るのを感じて慌ててカップで隠す。
話題を変えなければ…。
安室が沖矢を嫌っていたことを完全に忘れていた…。
『うん。それで…透くんにお願いがあるの』
「なんだい?」
『…フライパン、使いたい』
「お腹空いた?何か作ろうか?」
腰を上げようとする安室の腕にしがみつく。
『それじゃダメなの!』
「…どうして?」
『透くんにありがとうのプレゼント買おうと思ったの。でも、何がいいか分からなくて…昴さんに聞いたら"何か作ってみてはどうですか?"って。だからね、わたしが作りたい!』
そう言ってホットケーキミックスを持ってくると、安室は背中を丸め、手で顔を覆っている。
迷惑だったかもしれない。
そう易々と手作りは食べてはいけないのに…。あの時の自分はどうかしていた。
袋をぎゅっと握ると、音で安室が前を向く。にっこりと柔らかい顔をしていた。
『ホットケーキ…透くん好き?』
「ああ、好きだよ。葵ちゃん一緒に作ろうか」
『うんっ!』
あまりにも幸せそうに笑う安室に、鬱屈としていた気持ちは消え去っていた。
調理中、裏返すこと以外の全てを任された葵を、安室は終始にこにこと嬉しそうに、眩しそうに見守っていた。
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