第6章 日常…?
カチリ、カチリと時計の音が主張する室内に、カチャンと主の帰宅を知らせる音が響いた。
『透くん!』
視界に入ったその姿に弾みを付けてしがみつく。
その手をやんわり解いてしゃがんだ安室がするりと頬を撫でた。
「ただいま。一人にしてごめんね」
『透くん』
「ん?」
『おかえり』
そう言って肩口に額を押し付けると、ぐっと抱き上げられ咄嗟に首に手をまわした。
ふふっと笑う安室がそのままソファへと足を向ける。
「葵ちゃん何か飲む?」
『透くんのココア…飲みたい』
「わかった。待ってて」
火と刃物は使用禁止という決めごとがあるので、安室が作るココアを飲むのも久し振りだと緩む頬を押さえた。
「そうだ、この前送ってくれた写真可愛かったよ」
『ほんと?』
「ほんと。でも、真っ白な服でいっぱい遊べたかい?」
『あの日は、風見さんっていうお巡りさんに会って、その後昴さんと出掛けたから殆ど汚れなかったの!』
「お巡りさんって…何かあったのかい?」
訝しげに眉を寄せ、ココアを置いて隣に座る安室に内心首を傾げる。
『ううん。でも、忘れないってことは危ないから誰にも言うなって』
「そうだね。悪い人に知られてしまうと、とても危険だ」
多くの犯罪に利用される。それは勿論理解している。
だけど、もし調べあげられてしまったら…。この体で出来る抵抗なんて高が知れている。
それが組織の人間だった場合、助けを求めて手を伸ばすことも出来ない。
「葵ちゃん」
無意識に強く握っていた拳が、膝をついた安室の骨ばった手に開かれる。
そのまま包み込むように握ると指の腹で撫でた。
「ごめん、怖がらせちゃったね。確かに危険だけど、守るって言ってたんだろう?」
『…うん』
「なら大丈夫さ。絶対にね」
ゆるゆると目を合わせた葵にウインクすると、まだ温かいカップを握らせ腰を戻した。
「僕もその人にお礼が言いたいな。番号とかわかるかい?」
『わかるけど絶対ダメ!』
「どうして?」
『透くんに連絡先を教えたり、会ったりは出来ないって。本当は話すのもいけなくて、クビになるって言ってた』
そう言うと一瞬嬉しそうに目を細めた安室に、自分を試していただけかと胸を撫で下ろした。
「へー。変わった警察官もいるんだね」
『…そうだね!』
…反応に困る。
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