第6章 日常…?
『一応彼らには誤魔化しておきますので、今後の連絡は此方にお願いします』
身を乗り出し、ジェイムズに番号とアドレスを教えているとメールが届いた。文面に書かれている名前にバッと勢いよく振り返る。
「俺の番号とアドレスだ。普段は沖矢で構わないが、プログラムを受けたくなったらいつでも連絡するといい」
『あ、りがとうごさいます…』
携帯を懐に仕舞いながら言う赤井に瞬いているとジェイムズからもメールが届いた為、慌てて視線を手元に戻す。登録が終わり顔を上げると思いの外近くにある鋭く細められたその緑に息を呑む。
「君は彼が何者か知っているのか?」
『勿論。でも、何者でも構いません。私の家族は彼だけです』
「随分頑固だな」
『我慢比べは得意ですから、プログラムの件は諦めて下さい』
「…保留にしておこう」
彼の本職を言うわけにもいかず、笑顔を貼り付けるとやれやれと体制を戻し溜息をつく赤井を見て、ジェイムズが妥協案を下した。
『それより、私と取引をしませんか?』
「言いたいことはわかっている」
『ありがたいです。私の知っていることは話します。今でも、その都度でも構いません』
「その都度の方が此方としても助かる。何かあれば赤井くんから連絡してくれ」
「了解」
『何でも答えられる訳ではないので対価としては不十分でしょう。残りは私を利用してください』
その言葉が本人から出ることが意外だったのか、単に驚いたのか目を丸くする二人を捉えつつ続ける。
『私はお二人以外にこの話を聞かせるつもりはありません。本当なら誰にも言わず、墓場まで持っていく筈でしたから』
「家族にもいわないのは何故だ」
『組織の人間だからではありません。私は、この子供の存在が彼を生に縛り付けられるなら今のままで構わないと思っています。それに、全てが終わったら離れるつもりです。彼には幸せになって欲しいので…』
罪悪感はある。安室を騙し、無垢な子供を演じることに心が悲鳴をあげるときもある。それでも、彼が少しでも生きたいと思ってくれるなら自分の心などどうでもよかった。
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