第6章 日常…?
─決戦当日。
全身真っ白の自分を姿見で確認して、携帯のカメラを起動する。カシャッと撮った写真を"今日は真っ白!"という言葉と共に安室、沖矢、灰原に送りつけた。
これで今日の服装は記録にも残るだろう。前の二人は職業柄写真を残さないことも考えられるので、これに関しては灰原を巻き込ませてもらった。
財布、万年筆、その他諸々が入ったこれまた白いリュックを背負う。
"いってきます"と扉を開いた。時刻は9時40分。
10分程で到着した米花公園には予想通り親子連れが多く、その大半が遊具の近くにレジャーシートを広げている。
そのため東屋を使っている者はなく、葵は一人腰を下ろした。
その他諸々のソーイングセットから針を取り出して、ポケットの内側から刺しておく。
昨日のうちに、隅に白いペンで"たすけて"と書いたリボンをポケットに忍ばせた。何かあった場合、針で血を出して触れれば文字は浮き出る筈だ。
それを沖矢に見付けてもらうつもりなので、朝の写真は髪のリボンが良く見える角度で撮った。
暫く三人から来たメールに返していると、前方から視線を感じて顔をあげた。
濃紺のスーツを着た件の男と目が合い、慌てたように携帯を仕舞い目当ての物を取り出した。
『あっお兄さん!これ!これ落としたでしょ?』
「拾ってくれたのか。ありがとう」
"此処座っていいかな?"と葵の隣を差す男に内心警戒を強めるも、口角を上げて頷く。
「絢瀬葵ちゃん…だよね?」
『…うん』
「ごめん。これ落としたのはわざとなんだ」
『…わざと?どうして?』
「どうしても君と話をしたくて」
と内ポケットに手に伸ばした男に、自分もポケットにそっと手を入れた。
.