第6章 日常…?
ありがとうございましたーと笑顔の店員に背を向け、大通りに向かって歩く彼についていく。
「送りますよ」
『大丈夫、一人で帰れるよ!』
「…そうですか。気を付けてくださいね?」
『うん!バイバイ昴さん!』
手を振れば振り返してくれる彼とはこれから長い付き合いになりそうだ。
あの人…透くんのことは心配いりませんよ、昴さん。と思いを込めてにこりと笑い、くるりと反転して歩き出す。
その後ろでダークグリーンが開かれたことに気づかないまま…。
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夜の帳も下り月明かりが照らすなか、赤井は一人ショットグラスを傾け昼間会った少女を思い出していた。
彼女、絢瀬葵は初めて会ったあの日と変わらず普通の少女のように見える。
表情、行動、言葉遣い、5歳にしては随分と大人びていると感じたが、育った環境を思えば大人にならざるを得なかったのだろう…。金を出された時は流石に驚いたが。
その彼女があの女に目をつけられたのは、やはりその身の白さ故か。コナンには不可解だったらしいが、阿笠邸での志保の言葉にあの笑顔を思い出し一人納得してしまった。
しかし、少女には優れた能力がある。それに組織で危険視すべきなのはあの女だけではない…あの男に気づかれたら、それこそ終わりだろう。
ジェイムズに連絡を取り、証人保護プログラムを受けさせたい子供がいると切り出せば、彼女の了承が取れたらすぐにでもとのことだった。
その後、安室があの子の傍にいないとコナンから連絡を受け、見張ること数日…彼女を守るような動きをする人間がいることも気になるが、それよりもやっと接触できた葵は安室に対して不平不満はないらしい…、母親のことを考えれば納得できることだが。
一人の子供の未来がかかっているのだから少し強引にでも了承をと思っていたが、これは手強そうだと口元を緩めた。
まだ時間はある。地道に糸を垂らしていけばいい…彼女を救う蜘蛛の糸を。
グラスの琥珀色をゆっくりと揺らし、傾ける。
「守ってやるさ…。君の白は心地がいい」
その緑を細め、腰を上げた男の静かな誓いを聞いていたのは月とカランと音をたてる氷だけだった…。
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