第5章 ミステリートレイン
「それだけか?」
『…あ、Sweetie』
「え?」
『わたしのことSweetieって呼んだの』
「…オメーそいつに何したんだ?」
…傷の手当て…といっていいのか不明なこととチョコのお裾分け…だけだ。その日のことを話し始めると、彼女の瞳にあった恐怖が徐々に納得に変わっていくのがわかる。話し終える頃には腕を組み、大きく息を吐き出していた。
「なるほどね」
「何かわかったのか?」
「ええ。所詮黒に染まりながらもひだまりを求めずにはいられない、哀れな羊ってことがね」
「は?」
ちょっとこっち来て。とコナンを引きずる灰原はベルモットが葵を利用するとはすでに思っていないようだ…何故かはわからないけれど。
彼女が葵を利用して灰原の元へ…とは思わないのか、それとも…ないと言える確証でもあるのか。
「葵ちゃん。これからも安室さんと暮らすのか?」
『うん!』
此方へ戻ってきたコナンは警戒の色は残ってるが、とりあえずは安室と離すことは諦めたようだ。後ろにいる灰原は葵がバーボンと暮らすことにまだ納得していないのか、先程より不機嫌だが、嫌になったら来なさい。と、これまでのスタイルを貫くらしい。
「あいつら待ってるだろうし帰るか」
「そうね。あとで今日のこと詳しく聞きたいし?」
「お、おう。ちゃんと説明すっから!行くぞ、葵ちゃん」
『うん。ねぇ、コナンくん。さっきみたいに呼び捨てでもいいよ?』
「ハハ…じゃ、遠慮なく」
その後は怒られたり(蘭)、怒られたり(毛利探偵)、怒られたり(博士)ととにかく心配を掛けたことに胸を痛めつつ、皆と夕飯を済ませてから家に帰り、お風呂に入ってからベットにもぐった。
その日、葵の起きている間に安室が帰ってくることはなく、おやすみの文字が映された液晶が沈んだ彼女の顔を照らしていた。
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