第5章 ミステリートレイン
ここまで解けても、今のこの体で出来ることなんて限られてるし、ないに等しいかもしれない。それでもじっとしてるなんてこと出来ないし、する気もない。
ベルモットの動向を探ろう…最悪、灰原を庇ったって構わない。
──ごめんね、透くん。あなたの心を守るなんて大層なこと誓っておきながら、私はなんの犠牲もなく誰かを守れるほど強くない…
一応、トイレに行った後でまずは8号車から調べようと、知り合いに会わないことを祈りながら歩を進めていくと、突然後ろから顔に布を押し当てられた。
『…っんぅ!?』
っ!?うそ…なんで、まだ…哀ちゃ…
意識を手放す直前、ちらりと見えた白い手袋から覗く肌は見慣れた褐色だった。
□
「…ごめん」
振りほどこうともがいていた体からくたりと力が抜けるのを感じ、素早く辺りを見渡して気を失った葵を抱き上げる。
近くの部屋に寝かせて顔にかかる髪をよける。
「泣かないで…」
こめかみに伝う涙を拭い額に一つ唇を落とす。怖い思いをさせてごめん、守れなくてごめん、色んな思いにぐっと眉を寄せ息を吐く。
ベルモットに完了の文字を送ると葵の頬を撫で、部屋を後にした。
後ろ手で扉を閉め歩きだした男の目は冷たく、口許は薄く弧を描いていた。
─"僕"はバーボンだ
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