第5章 ミステリートレイン
こんな人目の多い場所で彼が公安として此処にいるはずがない。探偵として…も依頼人が必要になる。探偵だけを乗車させる依頼人というのも不自然だ。
となると、彼は…。ねっ?葵ちゃん!と笑うこの人は今、バーボンということになる。
浮かんだ最悪の考えに息をのむ。先程のコナン、黒としてここにいる安室、あの男性の灰原を見る目、そして怯えきった彼女。これらを合わせて考え付く最悪は、彼女が乗るという情報が組織に捕まれていたということ。
合っているかはわからない。でも、もうそうとしか思えない。
背中を伝う汗を感じながら彼女の手を強く握り返した。
□
―――パタン
「確かに彼女でしたね」
「まさかあの子が乗っているなんて…。わかってると思うけど、葵は巻き込まないでよ?」
「ええ。わかってますよ」
毛利探偵を見たときからわかっていたことだが、やはり蘭からの連絡は葵をこれに誘うものだったらしい。
朝の自分に彼女を部屋から出すなと言ってやりたい。
座席に座るベルモットは腕を組み思案しているらしい。が、その顔は殺したいほど憎んでいる男のもので心底胸糞が悪い。
「ねぇ、やっぱり隙をみて眠らせてくれないかしら?」
「そこまでする理由がありませんが…」
「念のためよ」
「…わかりました」
必要なものを取り、毛利探偵の元に行く為に部屋を後にした安室がその後の彼女の言葉を聞くことはなかった。
「きっとあの子はシェリーを探してしまうわ」
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