第2章 出会い
金融機関、個人事務所、テナント募集中の雑居ビル、その他は空き家や空きビルが多く歩いているのも男性が一人。米花町にこんな寂れた場所があることに驚きつつ、どう誤魔化そうかと思案する。一人で来た、は使わない方が良い。かといって近くに親が居るとも言えない。家出は論外。
どうしたものかと悩むのが顔に出ていたのか、ふっと声を漏らした女性が口を開いた。
「怒ったりしないから、本当のことを言って?」
聞こえた声は今までと方向は同じだが、これ迄とは全く違うものだった。先程までのを可憐というならば、今のは妖艶だ。
しかし、瞠目する葵の前で頬を緩めるのはあの女性一人だけだった。
『…お姉さん?』
情けない顔をしていたのだろう、葵の頭を優しく撫でた女性は聞きなれない声で続けた。
「こんな路地裏にあなたのような子供が入ってきたら普通は親がすぐに来るわ。そもそもこの道は子供が1人で歩くには危険よ?でもあなたの親が近くに居るようには見えない」
つまりそういうことよね?そう続ける彼女の瞳は真剣で、確かに目の前の子供を案じているように見えた。
この道を選んだのはただの気まぐれ、好奇心なのだがそれを言ったところで彼女が納得する訳でも、この話が終わる訳でもないことはわかっている。
いっそのこと全て話して交番に連れて行ってもらうのが一番なのではないかと脳内会議で結論を出した葵はありのままを話すことにした。
母は男を作って出ていき、父に至っては顔も知らない。祖父母は産まれる前に他界しており親戚もいない。
『お母さんはもうわたしの顔見たくないって。だからね、今日お巡りさんのとこに行こうと思って』
「行ってどうするの?」
『助けてってお願いするの』
話し終わるよりも早く、肩に移動していた彼女の手に抱き寄せられ腕を擦られる。されるがまま険しい顔で考え込む女性を見つめていると、ふと携帯を持ち誰かに掛け始めた。
「…Hi,透」
…?
「貴方に頼みがあるの。とりあえず迎えに来てくれる?話はそれから」
…ん??とおる?
葵の記憶に間違いがなければ、とおると聞いてこの世界でまず思い付くのは安室透…バーボンであり、正体は警察庁警備局警備企画課、降谷零だ。
「とおる」という名の全くの別人の可能性の方が余程高いが、念には念を入れておきたい。
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