第4章 新たなる
行くときと同様に抱き上げられたまま部屋に戻り、手洗いを済ませると、安室はリビングのソファに葵を下ろした。
「葵ちゃん、ご飯できるまでソファにいるかい?」
『…いいの?』
「もちろん。毛布とってくるから待ってて」
目を細めて笑った彼の広い背中を横になりながら見送る。てっきりベッドで寝ろと言われると思ったのに、これには吃驚だ。
毛布をかけてくれる安室にお粥で良いかと問われ、頷くと額の冷えピタを貼り替えて、髪を梳くように頭を撫で作り始めた。
その音に安心して目を閉じる。が、暗闇にぼんやりと浮かぶのは彼じゃない。忘れないという事がこんなにも辛いと思ったのは初めてだ。
きっとこれから増えるであろう紅を纏ったその姿が、もし、もしも見知らぬ人でない日が来たら…
もし、白を纏う彼だったら…。想像すら出来ない恐怖にカタカタと体が震え目の前がぼやける。
「葵」
ふと影がかかり顔をあげると、普段より少し低いその声の主は鍋をテーブルに置くとソファの下に座り、髪をすくうように撫で手を握った。
気持ちいい、と思うと同時に雫が落ちて視界が一瞬クリアになる。そこにいたのは見慣れた笑みを浮かべる安室ではなかった。
「大丈夫。大丈夫だ。その辛さはとってやれないけど、ずっとそばにいる。だからその記憶には蓋をしておこう、上から楽しい記憶をかけてしまえばいい」
『と、るく…っ』
「君が不安になることも、怖がることも何もない。大丈夫だ」
だから、今は眠ろう。
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