第4章 新たなる
「ねぇ葵ちゃんが見たっていう死んだおじさんはどんな人だった?どんな風に死んでたかとか、周りに何があったかとか覚えてる?10年前の事件と何か同じところがあれば、犯人を捕まえるヒントになるんだ。よかったら教えてくれない?」
「あ、それなら私が…服装とかもうよく覚えてないけど…」
「いや、葵に聞きたいんだ」
代わると名乗り出てくれた蘭を世良が遮る。こちらを見る8つの瞳に(奥にもう2つあるが)今朝のことを思い出して顔を顰める。
『白いシャツに黒いズボンを履いて、灰色のコートを着てた。靴は薄い茶色だったよ。髪の毛は黒くてくるくるしてて後ろで結んであった。髭も少し生えてたよ。口から血がでてシャツの下の方まで汚れてて、右手は血まみれだったけど左手は綺麗だった。文字のそばに血だらけのタバコが一本落ちてたけど、あとは何もなかったよ。』
「え、すごっ」
「すごい!なんで覚えてるの?」
「やっぱりカメラアイか」
「カメラアイ?」
「なにそれ?」
「瞬間記憶能力ともいって、見たものを写真みたいに切り取って覚えちゃうんだ。だから「死」っていう字もテレビを思い出して書けちゃったんだよ」
「一見便利な能力だけど、カメラアイは見たものを忘れない。あの死体も忘れることはできないんだ…」
「うそ!?」
「一生!?一生忘れられないの!?」
「わからない、でも大人になってもフラッシュバックで思い出すことはあるだろうね」
…これは悪いことをした。知らないと言っておいた方がよかったかもしれない。そんな顔させるつもりじゃなかった…。
空気を断ち切ろうとコナンが事件に話を戻すが二人は俯いたままだった。
「つまり…この二つの事件の共通点は、書体が酷似している「死」の血文字と一見、殺人には見えない二つの遺体のみというわけですね」
「すみません、盗み聞きするつもりはなかったんですが聞こえてしまいまして。蘭さん、園子さん、そんな暗い顔をしないでください。お二人にはこれから彼女が見るものを一つでも幸せな記憶にすることができるのではありませんか?」
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