第4章 新たなる
夥しい数の本が並ぶ書斎にボケーっと口を開けていると、CMで聞いたことのある工藤新一…今は江戸川コナンだった、の声がした。
といっても園子の後ろにいるからその姿は見えず、彼が葵を視界に捉えているかは定かではない。
持っていくからお茶でも飲んでれば?と追い出されキッチンを目指し、入るなり鍋に牛乳を入れ火にかける蘭を他所に、君はここ!と彼女たちの間に座らされ、確認するように部屋をサッと見渡した。
「葵ちゃんっていったっけ?」
『うん。絢瀬葵です。』
「絢瀬…?もしかして君のお母さんは絢瀬楓か?」
『そうだよ!何で知ってるの?知り合いなの?』
「いや…」
「どーしたのよ、世良さん」
厳しい顔のまま携帯を操作し、葵に見えないよう二人に見せると途端に彼女たちは顔を顰め口元に手をやる。
「これって…」
「そんな」
そんな二人にもう一度操作した画面を見せた世良は頷くと口を開く。
「蘭くん、それ葵に渡さないのか?」
「あ!そうだった。忘れてた」
「ちょっと〜しっかりしてよ?蘭」
まるで時間を巻き戻したかのように明るく話し出し、蘭はコトリと葵の前にカップを置いた。
『ココア…?』
「うん。葵ちゃん好き?」
『好きっ!今日もご飯のあとに飲んだよ!』
「そう、よかった!熱くはないと思うけど、ゆっくり飲んでね」
「零さないように気をつけるのよ」
「一応拭くもの用意しておくか…」
ぽん、ぽんと花開くように咲く温かさに心が軽くなって、彼女たちの前で初めて自分らしく笑えた気がした。
『ありがとう!』
暫く固まっていた三人だが、ハッとすると額を突き合わせて何やらコソコソとしだした。
かわ、わかる、などとても小さい声で話していたが、そんな彼女たちを気にすることなく甘い優しさの詰まるココアにゆっくりと口を付けた。
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