第4章 新たなる
「おじゃましまーす!」
『おじゃま、します』
元気な世良に倣って声に出す。出た声は思ったよりもか細かったが、蘭はうん!えらい!と撫でてくれた。それは安室の骨ばった大きくて優しい手とは違って、細く柔らかい手だった。母に撫でられるとはこういう感じなのかなと少し嬉しくなった。
「あ!コナンくんの靴…」
「もう来てるのか!」
「素早いわね、あのガキンチョ…」
気を落ち着けて視線を辿れば、そこには小さなスニーカーがある。これが……殺人級のボールを放つという、あの…なんと恐ろしい。
行くわよと園子に手を引かれながら広い廊下を進み、彼女達が話す昴さんなる人物を少し冷静になった頭で思い出す。アメリカ連邦捜査局、FBIの赤井秀一……の今の姿が沖矢昴と呼ばれる人だったと記憶している。此処に住んでるのか…とついきょろきょろと辺りを見渡していると部屋からガタッと物音がした。
「ここにいたか、コナンくん!」
躊躇なく開けた世良に多少呆れるが、体をずらし中を伺うと茶髪に眼鏡を掛けた所謂イケメンな青年が歯ブラシを銜えている、歯磨きの最中だったらしい。この人が沖矢昴…赤井秀一だろう。
「あのー、コナンくんが来てると思うんですけど…」
「ん!ん!」
そう彼が指す方向には書斎があるらしい。けれど、なぜ左手を使わないのかがわからない。赤井秀一は左利き、沖矢昴は右利きと記憶しているが、歯磨きに利き手もなにもない…と思う。左右どちらも使う人は意外といるものだ。
彼は歯ブラシを持つのも指を指すのも右手、左手は常にポケットの中…使えない理由があるのか?沖矢には都合の悪いものでも隠しているのだろうか。
彼の謎行動に頭を捻りつつ、そっちに行ってみます!という蘭について行こうと背を向ける。後ろから視線がバシバシ刺さるが、ここに住んでいるのなら後で話すこともあるだろうと歩を進めた。世良が彼の何を気にしているのかはわからないが、彼女とはスタート地点が違うのだ。何者か知るのと知らないのとでは構えが違って当然か、と自分に笑った。
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