第3章 すたーと
安室がお風呂に入っている間、彼が淹れてくれたココアを手にぼーっとテレビを見ていると、いつの間にか目の前にスウェット姿の彼が居た。
『わっ!?透くん!びっくりした...』
「ははっ、大丈夫?もう寝ようか」
そこまで眠くなかったが一般的に子供は寝る時間だ。二人で歯を磨いて、テレビを消そうとリモコンを持ち視線を向けると、連続婦女暴行の指名手配犯の姿が映し出されていた。
その見覚えのある顔に慌てて安室の服を引っ張った。
「葵ちゃん?」
『わたし今日この人見たよ!』
「!!...どこで見たか覚えてるかな?」
『クリスと会った道で見たよ。テナントなんとかって書いてあるビルの隣の大友ビルに入っていった』
「そうか。どんな服装だったかはわかる?」
『うん。灰色の後ろに龍の絵が描いてある長袖のシャツに黒いズボン履いてて、靴は白くて紐は黄色かった。右手に銀色の大きい指輪して左手に金色の細い指輪してた。あと、黒い帽子と黒い眼鏡をしてたよ』
「さっきの写真と顔が同じだってわかるのかい?」
『わかるよ!覚えてるもん、絶対そうだよ!』
しゃがんで腕を掴んだ安室からの質問に詰まることなく答えると、彼の目は見開かれた。細部まで答えたことに驚いているのか、記憶力に驚いているのか定かではないが、やはり子供の言葉は信じられないかな、と眉をきゅっと寄せた。
「葵ちゃん。今まで覚えたものをすぐに忘れたことはある?」
『ないよ?』
(この世界に産まれてから)忘れたことはないと首を横に振れば、そうか、ありがとう。もう寝よう、と葵を抱き抱えて寝室を開け、ベッドの上に下ろす。電話でもするのかなと素直に横になった体は思っていたよりずっと疲弊していたらしく、安室のおやすみに応えたあと、すぐにうとうとと目を閉じ意識を手放した。
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