第9章 兄と親バカと花見
ラムネのように澄んだ空。燦燦と笑う太陽。ゆっくりと揺蕩う雲。
窓を開けた葵を微睡みに誘うように気持ちのいい風が吹き抜けていく。白地にターコイズブルーのラインが映える遮光カーテンが風とじゃれあうように揺れている。
絶好の花見日和だ。
一頻り外を堪能してリビングに続く扉を開けると、先程まで空で輝いていた太陽が靡いた。空と雲を合わせたような瞳がきゅうと細まり、その身に似合う低い声が“おはよう”と耳を撫でた。
『おはよう』
「いい天気だ」
洗面所から戻るとテレビ画面を見つめる安室が呟いた。ぽつりと零れたそれは安室というより降谷に近いと感じる。嬉し気に、それでいて複雑そうなそれにどんな意味があるのかはわからない。
一つ言えるとするならば、今日の花見に肯定的ではない…ということだろうか。
行くなとは言われなかった。渋る素振りもなかった。だが、楽しんできなさいと笑みを浮かべたその瞳に葵は確かに焦燥を見た。
この花見に何があるのだろうと考えてもそれは無意味だ。何一つ情報がないのだから散らばるピースを集めたくともうまくはいかない。
目の前の男ならば可能性は0ではなさそうだが…。
そんな芸当が自分に出来るわけがないので、彼の裏へ精一杯考慮した結果、数日前着せ替え人形と化したときに着た服をそのまま着ていくことにした。
何度もポーズを変えながら撮られた写真は、彼の部下へ送らるためだと解釈している。
上から下まで全て完璧にコーディネートされたそれを、わざわざバラバラに着る人間はいないだろう。
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