第9章 兄と親バカと花見
手に落とされた金属に驚き、顔を上げるとニッと笑みを浮かべるコナンと微笑む灰原、その後ろで親指を立てる博士をそれぞれ視界に入れた。
『バッジ…』
「大丈夫よ。それ特別製なの」
「発信器は裏のボタンを長押しすればON.OFF自由になっとるんじゃよ。これなら平気だと思ってのう」
「明後日の花見で使ってみてくれよ」
葵の掌からバッジを拾って"これがボタン"と右下にある突起を指した灰原に、沸き上がる気持ちを抑えることもせず思い切り抱き付いた。
想像以上に嬉しかったのだ。自分の為に一所懸命考えてくれた2人が、それを生み出してくれた博士が。
よろけながらも支えてくれた彼女にぎゅっと力を込める。コナンと博士にも順番に抱き付いていくと、え?は?なんと!と驚きの声を上げる3人の前で背を正し勢い良く頭を下げた。
『ありがとう!すっごく嬉しい!!』
高揚に頬を染め、感激に瞳を潤ませた葵は滲む視界の中で誇らしげに破顔する3人の姿を納めた。
そして早速出番のやってきた手の中で輝くそれにそっと唇を落とした。
◇◇◇
子供達にバレないようにと裏口から帰されたあの日、罪悪感と自己嫌悪に苛まれていた葵は帰宅した安室と視線を合わせることが出来ずにいた。
彼の全てを見透かすような蒼が自分の汚さを捉えてしまうのではないかと未だ嘗てない程混乱を極めながら、ただただ恐怖していた。
そんなあからさまな態度を取っているという事実が更に重く肩に乗しかかり、遂に部屋に閉じ籠る自分の膝に置かれた手を見つめることしか出来なくなった時、コンコンと響く入室許可を求める音の後に控えめに扉が開く。
罪悪なのか、自分でも驚く程にきつく拳に力を入れると、視界にジーンズを履いた足が映った。
膝をついた安室の大きな手が握り込んで更に小さくなった手を撫でる。裏返し、指を一本一本解くと爪痕の付いた掌を親指で労るようになぞった。
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