第9章 兄と親バカと花見
「発信器付きで、この眼鏡で位置が拾えるようになってる」
「…」
「やっぱりダメかな?」
やっぱり…ということは葵がそれを理由に断ったとみていいだろうな、と何気なく言った言葉を覚えてくれていたことに口角が上がる。
「う~ん、探偵としてはあまり家は知られたくないかなぁ」
「…そっか。あと、さ」
「うん?」
珍しく言い淀むコナンを覗き込むと、眉を顰めた彼が顔を上げる。目を丸めた安室には、その顔が今にも泣き出しそうに見えた。
「その話の時、泣きながら言ってたんだ。棄てられたくないから、良い子でいたいから要らないって…」
「…え?」
思い出しているのか、くしゃりと顔を歪めたまま語られた内容は安室に衝撃を与えるには十分過ぎる程のものだった。
肘をついた手に顎を乗せたまま暫く無言を貫いていた安室が眉を寄せ、その蒼を緩慢な動きで閉じた。見定めるようなコナンの耳に似つかわしくない舌打ちが届き、一瞬の内に青が丸まった。
無意識に出たそれに本人が気付くことはなく、ただ自分に向けた怒りを抑えていた。
あの子がそんな風に考えていた事など知らなかった。…いや、これは言い訳に過ぎない。安室が言った全てを守っていることが既におかしかったのだ。5歳にしては聡明で物分かりの良い葵の性格は育った環境がそうさせたのだと理解していたが、その意味をもっと深く考えるべきだった。
あの子はどんな思いで安室の言い付けを聞いていたのだろうか…、元気よく手を上げながらも嫌われないように必死に覚えていたのだとしたら…それはなんて辛いことだろうと溜息を吐いて天を仰いだ。
話終わりから静観していたコナンは、そんな安室の姿を視界に入れて緩く目元を細めた。
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