第9章 兄と親バカと花見
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目を真っ赤にした葵を子供たちの悪意ない追撃から守る為に勝手口から静かに帰すと、探偵団にも博士が集中したいからと告げて早めの解散となった。
地下室での事が気になっていた博士に何があったんだと視線で問いかけられた灰原はソファで膝を抱えている。5歳という無条件に我儘が許される年の子供が捨てられたくないと涙する姿にコナンも灰原も滅入っていた。
流石にこの話を沖矢に聞かせることは出来ず、博士を連れ先程までいた薄暗い部屋の扉を潜り、そこで葵との話を伝えると沈黙が辺りを包み込んだ。
「博士。葵のバッジのGPS、スイッチ式に出来ねえか?」
「少し時間は掛かるが出来るじゃろ」
「お願い博士」
「勿論じゃよ!」
眼鏡の奥を細めて頷く博士にこれで葵と探偵団のどちらも悲しませずに済むと2人で顔を見合わせ胸を撫で下ろした。
「でも灰原があんなこと言うとはな」
「…仕方ないでしょ!それとも何?あの男は自分の命が惜しいから貴女と暮らしているんだとでも言えっていうわけ?!」
「そ、そんなこと言ってねぇよ!オメーがバーボンから離さないのが意外ってだけだよ」
「分かってるくせに」
ジト目で睨む彼女から発せられる冷気に、これは怒っているなと目を光らせる般若から顔を背けた。対象は母親か安室かはたまたその両方か…、両方だろうな。あんなことを言わせた大人に灰原は憤っている。それでも葵の手を引かなかったのは彼女の心を守る為だと分かっている。彼女は随分と安室に懐いているし、安室もそれに絆されているように見える…それが本心かを確かめる為にも…。
「じゃあ俺も帰るよ」
「ポアロに行くんでしょ」
「やっぱバレてたか…」
「あの男が嫌な顔したら今度こそ引き離すわよ」
腕を組む彼女は奥にある棚を睨み付けているが、それに何も返すことなく阿笠邸を後にした。きっと灰原は引き離せないだろうと思いながら。
安室が葵の叫びに背を向けないことを願いつつ、見慣れた店の扉に手を掛けた。
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