第8章 決意
カチャリと小さく開いた扉から猫のように体を滑り込ませ感情の読めない細められた瞳を見上げる。じっと此方を見下ろす男に痺れを切らし幼女らしい挨拶をすると、歩き出した彼が付いてこいと手を振った。
キッチンまで移動した沖矢はグラスにオレンジジュースを注ぎ葵の前に置くと耳を軽く叩く。此方がそれに頷くと彼は自身の首元に手を当てた。ピッと小さな機械音と共にその緑が開かれる。
「君はいつも泣いているな」
『そ、うですか?』
「ああ」
揶揄を含む瞳から逃げ、そんなに泣いてるだろうか?と腕を組み記憶を辿る。「死」文字事件の工藤邸。FBIとの秘密協定。そして今回。全ての映像を思い出して"あ"と声を上げた。
葵が泣いた3回には必ず沖矢昴がいた。そして彼に会うのは4回目である。
沖矢目線でいえば確かにいつも泣いている。その事実にしゃがんで顔を隠す。これ以上からかいのネタを渡さない為の抵抗だった。
『あ"ー』
「ふ、詰めが甘いな」
『なんですか!』
「耳が赤い」
バチンッと耳を押さえ赤い顔を膨らませながら沖矢を見上げると、いつの間に淹れたのか珈琲の入ったマグカップを手に椅子に腰掛けている。葵の顔を見て笑みを深めた沖矢はカップを下ろして手招きを始めた。
ぶすっとした顔のまま近づくと一瞬の浮遊感の後椅子に座らされ、オレンジジュースを手渡されたのでお礼を言って一口飲む。さっぱりとした甘さで美味しい。しかも果肉入り。
途端に目尻を下げた葵の耳に"子供だな"という声が届いた気がしたが、寛大な心で許そうと聞こえない振りをした。
「それで?」
『?あっケーキ取りに来たんです!』
「…持てるのか?」
『……博士ー!!』
「くくっ」
決意Fin.