第8章 決意
自分は間に合わない。助けられるのは…と視線を投げると見開かれた瞳が此方を捉えた。
「コナンくん!後を頼んだ!」
言葉と共に飛んできたガムテープをコナンが受け止めるのと同時に安室がギリギリで葵を抱き込んだ。何が起きたのか分からずに目を開いた彼女の肩が震えるのを見て、そして同情した。
普段の安室透も困った時はこう笑うのだろうという笑みを浮かべている…がその瞳は一切笑っていなかったのだ。
「コナンくん…ガムテープどうするの?」
「え?」
「動けないように巻くのよ」
「あ、ああ。光彦と灰原は此処に待機、警察に連絡頼んだ。元太と歩美は手伝ってくれ!」
「おう!」
「任せて!」
近くで座り込んだまま気絶している男の手足を縛り、二の腕辺りを胴体諸共ぐるぐると巻きながらもコナンの思考は別にあった。
意外と安室は葵に絆されているのかも知れない。あれは面倒をかけられた怒りではなく、本気で案じている目に見えた。
ああ、だけど葵に何かあったらベルモットが黙っていない…と思う。あれは子供を案じているように見せて自分を案じていただけなのだろうか?
いや…うーん…腑に落ちない。
思考を一旦止めて巻き終わったガムテープをビリッと破き二人目に取りかかる。
先ずはと手に巻き始めた時、いつも笑みを携え感情を読ませない安室が声を荒げた事に驚き振り返るが、この位置からでは背を向けている為表情はわからない。
目に涙を浮かべる葵を心配そうに見つめる歩美を此方に戻し作業を続けながら横目で様子を伺っていると、彼女の口が小さく動くのが見えた。謝罪か意見か反論か、それは定かではないが安室の雰囲気が柔らかくなったことだけは確かだった。
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