第2章 女神の軌跡(2)Gian side
そんな俺の様子にきょとんと、珍しく子供みたいな表情をするトゥーナが可愛く見えて。
思わず笑えば、彼女はとても嬉しそうに微笑んでこう言ったんだ。
「ジャンが笑った」
なんとも言えない気持ちに襲われた。
後悔や罪悪感、悲しいとか悔しいとか嬉しいとか愛しいとか。
いろんな想いがごちゃ混ぜにシェイクされたソレを、どう伝えたらいいのかわからなくて。
まだトゥーナの顔を冷たく濡らしている滴を、ひとつひとつ丁寧に唇で拭っていく。
目許……頬……顎……滴が伝った跡もすべて。
最後に口の端っこギリギリのところへキスをして、ごめんと謝り抱きしめる。
やがてほっそりとした腕が俺の背中にまわり、聞こえてきた優しい声。
「おかえり」
「…ただいま、トゥーナ」
あれほどキレイであったかい涙を、俺はほかに知らない。
その日の夜は、数年ぶりに二人でベッドに寝転がり。
抱き合うような体勢で先に眠ってしまったトゥーナの唇に、自分のソレを重ねた。
それが初めての、彼女に対する親愛以上のキスだったーー…。
◇ ◇ ◇
『ャン……ジャン!』
自分の名を呼ぶ声に、過去の思い出へと飛んでいた意識が今へと戻される。
きっと何度も呼び続けたんだろう……心配の色をチラつかせるトゥーナに、大丈夫だと口元に笑みを浮かべてウインクする。
『いきなりボーッとして、どうしたの。考えごと?べつにいいけど…チョコバーそんなに握りしめたら溶けちゃうよ?』
慌てて食べかけのチョコレートを確認すれば、長く握っていた手の熱によって見るも無惨な姿に変形していた。
あー…やっちまった、せっかくの甘味がァ…。
それでも味や甘さはそう変わるまい。
残りを一気に口の中に入れ、溶けて手についてしまったチョコを舌でなめる。
「…ン……うん……アンマァ」
痛いくらいの甘さが、ひさびさの身に染みる。サイコー。
満足して顔を上げたら、形の良い眉を歪めたトゥーナが、ベッドに腰掛けてジッとこっちを見ていた。
『……ジャンの食べ方って、なんかエロい』