第2章 女神の軌跡(2)Gian side
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気がつけば俺には幸運がついてまわり、ついでに女神までついている。
ムショ暮らしも通算五回目ともなればすっかり慣れたもので。
ここ――マジソン刑務所にて囚人番号NO.02856号こと『Giancarlo Bourbon del Monte(ジャンカルロ・ブルボン・デル・モンテ)が収監されている独房の中、わざとらしくこちらに背を向け膝を抱えている自称幸運の女神・フォルトゥーナの姿を視界に捉えたまま。
俺はさきほど看守のジョシュアから、おとついの――たまたまシカゴの大物と知らずにリンチから助ける結果となった――礼だと頂いたハーシーズのチョコバーをかじる。
「……ン……あんまぁぁぁぁぁいいいいいい」
脳みそにヤケドをするこの甘さ。
まさに俺が求めてやまなかったモノ、だ。
『ちょっとジャン?わたし今、機嫌悪いんですけど。なに一人でおいしそうにチョコバー食べちゃってるの』
ブロンドの長い髪をサラリと揺らして、ゆっくり振り返った自称女神――トゥーナがお綺麗な顔を歪め、こちらをジト…と睨みつける。
ワオ。そんな顔しても怖いどころか、逆にかわいいだけだって気づかないもんかね……まァ、言わねえけどぉ。
それに、実体化していないトゥーナに声をかけられても困る。
彼女の声も姿も、俺にしか聞こえないし見えないのだから。
頭のイカれたキチガイ扱いはごめんだ、俺のまったりムショライフが台無しンなっちゃう。
『ジャンは、わたしよりチョコバーの方が大事なんだね…』
そんなことを言われてもこのままでは返事のしようもないので、後ろの通路をチラッと確認してから便器に腰掛けたまま。
俺は首から紐で吊り下げている金のリングにキスをした。
キス……それはトゥーナにとって、相手に幸運を分け与える儀式。愛していると伝える仕草。
俺たちの、謝罪と仲直りの印。