第6章 女神の軌跡(5)
「お前がキスしろっつったんだろうが」
「はあ?」
思わず眉をひそめてしまう。
誰がそんなこと言いました?
「幸運をやるのに、キスしないといけねーんだろ?もう忘れたのか」
「……ああ!」
なんだ、そういうことねー。
って違う違う微妙に間違えてる!
「イヴァンそれ違う。一時的に幸運をわけるだけなら、頬っぺにキスするだけで十分」
「アァ?」
「実体化しなくても姿を見たり会話するには、まぁ…お互いの何かを取り込む必要があるんだけど」
「なら…」
「それでも、長々とガッツリ深いキスしなくても血をなめるとか…ちょこっと唾液を交換するくらいで大丈夫」
それを聞いたイヴァンは気が抜けたのか、わたしの上に体重をかけてのし掛かり顔をすぐ横に埋めた。
「…ンなのは早く言え」
「あー…ごめん?勘違いされると思ってなかったからさ」
「……チッ…クソ!」
「ごめん。だから、そろそろ退いてもらえると助かるんだけど…重いし体キツい」
「…ムリだ、我慢しろ」
「え、なん……え、え、ちょ、待って、待った!」
――なんで胸さわってるの?
イヴァンの右手が薄い囚人服の上から、わたしの胸に触れてきた。
「こんな、男だらけの場所で煽ったお前が悪ぃ」
「煽った覚えないんだけど…!?」
形状を確かめるように撫でると、シャツの裾から遠慮なく手を入れて直接触りはじめる。
うわあああっ、男になってたから今ノーブラだ!何も着けてない!
「お前、気づいてねーのか?体格の違う男物の服を女が着てんだ、ダボついて色んなとこ見えすぎなんだよ。それにさっきのキス、途中から反応返しただろ…誘ってンのと一緒だ」
「そ、れはつい、出来心で…!悪かった、ごめん、わたしが悪かった」
「もう遅ぇ、黙って1回付き合え!」
「無理っ…!!」
1回て、本当にただの性欲処理じゃないか!1回じゃなければいいってものでもないけどさ!
好きでもない好かれてもいない男とヤるほど、わたしは欲求不満じゃない。
「こっちのがもう無理なんだよ、クソ……大人しくしてりゃ、気持ち良くさせてやる」
「っ……」
顔を横に向けたのか、さっきよりも低いイヴァンの声が耳のすぐ傍で聞こえる。
熱い息がかかり、くすぐったさにゾワッと鳥肌が立った。