第6章 女神の軌跡(5)
固まること数秒。
ハッとしてすぐ離れようとしたが、いつの間にか頬にあった手が後頭部をしっかり捉えていて後ろに下がることが出来ない。
「むー、うー、うぅー」
空いている左手でイヴァンの体を押しながら「離せ」と抗議したら、隙間のできた唇からヌルッと生暖かいものが入ってきた。
…こいつ舌いれてきた!?
やめさせようと胸の辺りを叩こうとするも、近すぎてうまく力を込められない。
そうしてる間にもイヴァンの舌は好き勝手に蠢き、口内を蹂躙していく。
「ん……ンん……んぅう…!」
薄目を明けたまま睨んでいるつもりだがやはり近すぎて、イヴァンも同じく細目でこちらを見ていることがぼんやりわかるだけ。
舌の動きの合間にまた頑張って抗議をしてみたが、より深く激しくなるだけだった。
……もういい、後で殴ろう。
人間のときと違い恋人がいるワケでもなければ、何かに操をたてているワケでもない。
痛くもくすぐったくもない上に罪悪感も、嫌悪感すらとくにない……無問題。
抵抗するのも疲れてきたので、瞼を閉じて体の力を抜く。
抵抗はしないが応えることもしない、ただ舌と唇を受け入れる。
さっきまでとの変化に気づいたのか、わたしの右手と後頭部を捕らえていたイヴァンの力が少しゆるんだ。
…よし、その調子で早く終わってください。
少しして暴れていた舌がゆっくり抜かれ、深いキスで温められた唇が離れては重なり柔く食んでくる。
あー……うん…こういうのは、嫌いじゃない。
さっきまでの荒々しさが嘘のように優しい感触に、ほんのり気持ちよさを感じてつい自分からも唇を動かした。
ちょっとだけ……それがいけなかった、らしい。
「……んむっ…!」
今度は急に噛みつくようなキスをされ、さすがに驚いて目を見開いた。
だんだん体が後ろへ傾いていき、背中が固いベッドについたのがわかる。
この体勢キツい…じゃなくて、え、なんかおかしくない?
「んっ、ううん?…んっ、んんん!」
鼻唄の要領で強引に声…というか音を出して訴えれば、言葉にはならなくても何か通じたのか。
キスをとめてくれたイヴァンがわずかに唇から離れ、至近距離で見つめてくる。
「…はぁ……なんだよ」
「いや、なんだよはこっちの台詞なんだけど」