第6章 女神の軌跡(5)
「じゃあ、まずは…」
「おい待て、なんだ?」
距離を詰めてイヴァンの頬に触れようとしたら、ガシッと手を掴まれ止められる。
「なにって…幸運をわけるんでしょ」
「それがどう……まさか、その方法って…」
「キスですけど」
ズバリ答えたら、イヴァンが額に手を当てて項垂れた。
なんでですか、失礼なやつだな知ってたけど!
「…毎回しなきゃなんねーのか、ソレ」
「あのねー…何も関係のない人間に対して、特別な触媒も無しに力を与えるのって大変なんだよ。精神的…もしくは肉体的な繋がりがあると、それが楽にスムーズに出来るの。でも、精神的に〜なんて簡単なことじゃないでしょう?人の心なんてコロコロ移り行くものだし」
「理屈はわかった…」
「キスしたくらいじゃ、せいぜい効果はもって1日。潔く諦めてください」
べつに女慣れしてないワケじゃあるまいし、頬っぺチューくらいでガタガタ言わないでほしい。
同性愛に偏見あるくせに、ゲームでは口に出すのも憚れるようなことをジャンにしてたじゃない。
……アレ?なに、もしかして…わたしとキスするのが嫌なの?
まさか、そこまで嫌われてるとは……好かれようとは思ってないけど、なんかやっぱり…。
「さすがにちょっとショックです」
「は?」
「そこまで嫌がられると、ねぇ…」
「おい」
「無理やり襲う趣味もないし…」
「なに言ってんだ」
「そんなに嫌なら、触媒探してくるよ?」
「うるせぇ。人の話を聞けっつってんだよ、ファック」
「…なんですか」
右手を掴まれたまま、左の頬をムニィっと摘まれる。
痛くはない…加減してくれているんだろうか。ジャンへの散々な態度を見てきたから、ものすごく意外に感じてしまう。
嫌がられてはいるけど、嫌われてはいないのか…それとも、基本的に女性の扱いは丁寧な方なのか。
いや……コレ、丁寧?女扱い?
「べつにイヤとは言ってねぇだろ」
「そうなの?」
なら何なの?なにか他に問題ありましたっけ。
じっと見ていたら、何故かイヴァンも黙りこんだ。
目をそらす理由もない為、にらめっこ状態で次の言葉を待っていたら徐々に顔が近づいてきて…あれ、と思ったときには唇が重なっていた。