第6章 女神の軌跡(5)
黙ってこちらに目線をよこしてくるイヴァンの瞳を強く見つめる。
「もし傷つけたりしたら、許さない。覚悟しておいて」
一方的で強制的な――。
「その時は、他の何を傷つけても巻き込んでも、死にたくなるほどの後悔をイヴァンにプレゼントしてあげる」
――女神からのお願い 。
「…何がお願いだ、そういうのは脅しってンだよ」
意外にも怒った様子を見せないイヴァンは、ただ呆れたといった声で興味なさそうに顔を背けた。
「興味ない?でも、取り引き材料としては悪くないでしょ」
「こんなん取り引きにもならねぇ」
「えー、文句が多いなぁ……じゃあ、脱獄して色々と落ちつくまで身の安全は保証するっていうのは?絶対に守るよ」
「……俺が最優先なんだろうな」
「いや、ジャンの次」
「Fack!!ふざけんなっ、ナメてんのか!シット!」
「イヴァンこそなに言ってるの。ジャンは特別、別枠、殿堂入りしてるの……ていうか、それくらいわかってるでしょ」
本当の馬鹿じゃないんだから。
なに駄々こねてるんですか。
「クソ……せめてアイツらよりは優先しろ」
「あいつら?」
「ハッ、どうせ他の3人にも同じこと言ってんだろうが」
ワーオ…少し驚いて目を一瞬丸くしてしまう。
まだルキーノとイヴァンにしか言ってないけど、そのうちベルナルドとジュリオにもお願いするつもりではある。
「…ご名答。よく回る頭ですこと」
「あ゛?馬鹿にしてンのか」
「羨ましいって褒めてるの」
「あぁ…お前、単純そうだもんな。裏の裏読んだり画策したりすんの苦手だろ」
「……」
単純とか、きみには言われたくありません。
たしかに小難しいこと苦手だけど。
軍師タイプでもなければ参謀役なんて選ばれるどころか見向きもされない感じですけど。
「わかった。ジャンの次にイヴァンを優先する…これでいい?」
「あのタコの次っていうのは死ぬほど気に入らねぇが…まぁ、いい」
タコさんなジャンが頭に浮かぶ…あ、タコイヴァンに墨かけられた。
想像の中ですら怒ってるよ。
「よかった。これからよろしくね」
これから少しでも良好な関係を築けるといいんだけど。
その方が協力してもらいやすいし…うまくいけば、頼まれずともジャンを助けるようになるかもしれない。