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Fortuna【ラッキードッグ1】

第6章 女神の軌跡(5)


「…変な質問はあったけど、他はべつに……あ、でも」

「でも?」

「いきなり、くすぐられた」

「くすぐられ…」

「そう。お腹とか、そっと撫でるからもうくすぐったくて笑うしかなかったよ…すぐにやめてくれたから、よかったけど」


長くされてたらきっと今頃は、笑い疲れてグッタリ屍状態だったよ。
このくすぐったがり、なんとかならないかなー。
軽くウエストのあたり掴まれただけでビクッてなるの困る。

そんなことを考えていたから、ジャンがどんな顔をしていたのか見ていなくて。
気づけばジャンの腕の中に、しっかり閉じ込められていた。


「…ジャン?」


名前を呼んでも返事はなく。


「どうしたの?」


問いかけても、黙ったまま。

ルキーノと何かあったのだろうか……弱音は吐かないけど、重圧やら責任やらその他にも色々…わたしの知らないことがたくさんあるのかもしれない。

イヴァンとも何かひと悶着あったみたいだしね。
一見、飄々と自由なようでいて…実は情に厚いジャンを縛るものは意外と多い。


「…ジャン、大丈夫だよ」

「トゥーナは……俺の傍に、いる…?」


いつもフザけた調子の言葉たちがポンポン放たれる口から出た声が、柄にもなく震えているから…胸がギュウっと苦しくなった。


「いるよ、わたしはジャンの傍に……今も……これから先も……ずっと…」


ジャンが望む限りは――。

そう伝えて背中に腕を回したら、さらに力を強く込めて抱きしめてきた。
幼い頃のジャンを思い出して微笑むと、祈るように瞼を閉じてソッと優しく背中を撫でる。

だいじょうぶ、だいじょうぶ。
だいすきだよ、だいじょうぶだからね。
なにもこわくないから、だいじょうぶ。

心の中で唱えながら、何度も何度も。
あっという間に自分より広くなってしまった背中に当てた手のひらで、ゆっくり上から下へ撫で続ける。

どれくらいの時間、そうしていただろうか。
ようやく気持ちが落ちついたのか、わたしを抱きしめている腕の力が緩みジャンの体が離れていく。


「……悪ィ」

「なにが?弱ってるジャンとか珍しすぎて得した気分ですけど。なんならもっとベッタベタに甘えてくれていいんだよ?」

「うるせぇ…」


…あら照れてます?
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