第6章 女神の軌跡(5)
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イヴァンと別れたわたしたちは、なにか特別な騒ぎでもない限り、皆がひっそりと過ごす夜の刑務所内を歩いていた。
静かだ――…もし、うるさく騒いで看守にでも見つかれば、懲罰房に入れられてしまう。
だからまぁ、当たり前と言えばそうなんだけど…今通っている路なんて、並んで歩くジャンとわたし以外は誰もいない。
朝や昼間と違って余計な音が聞こえない空間は、どこか物寂しい……いや、不気味な感じがする。
「トゥーナって、意外と気が短いよな」
「そうかなぁ…普通じゃない?」
「さっき、イヴァンの奴…最初蹴られたときすげぇ間抜けヅラしてたぜ」
「なにそれ見たかった」
イヴァンといえば…通常の顔に嘲笑った顔、人を馬鹿にした顔に悔しそうな顔、冷めた顔に怒った顔。
……意外とバリエーション豊富だったけど、ろくな表情見てないな。
「…間抜けヅラかぁ…やっぱり見たかった」
「ぷっ。……そのうち見れンじゃねーの?」
「んー…それもそうだね」
おかしそうにニヤニヤしながらこっちを見るジャンに、笑って頷いておく。
見れなかったら見れなかったでかまわない。
ジャンが楽しそうにしてるの見るだけでも楽しいしね。
「そういやルキーノ…連れて行かれてから何してたんだ?戻ってくるまでけっこう時間くってたけど」
「あぁ、なんか髪触られてた。ジャンにとってとくに重要な話はべつに………ジャン?」
急に足を止めてしまったジャンを振り返って見れば、何故か驚いた表情で口をパクパクと開けたり閉じたりしている。
…なにかあったの?
まさかユーレイ見たとか言わないよね。
首を傾げて待っていると、再起動したジャンがズカズカといっきに距離を詰めて両肩をわしづかんできた。
「どうしたの?ジャン…珍しく顔がこわいよ?」
「トゥーナ…ルキーノに、何か変なこととかされてねーよな」
変なこと……よくわからないけど、ジャンなりに心配してくれている…のかな?
あの人たち、みんな警戒心強そうだもんね。
わたしはわたしで怪しすぎる存在だし。