第4章 女神の軌跡(4)
「なにって、ジャンの上から重い荷物を退かそうと」
「その前だ!その前!」
「前ぇ?…ジャンに襲いかかる変態を撃退しようと蹴りましたけどなにか」
文句ある?そう続けようとした言葉はイヴァンの「Fuck!!」にかき消されてしまう。
グイッと襟元をさらに引き寄せられ、怒りに沸騰した顔が近づいて…近い近い。
「誰が変態だっ、ァあ゙!?」
「ジャン押し倒して馬乗り。どう見ても男同士の危ないシーン…」
「ファック!ちげぇよっ、気持ち悪ィ勘違いすんな!Shit!!」
「いくらジャンが美人さんだからって」
「だから違ぇっつってんだろ!クソッ、話を聞きやがれっ…」
「あー、アー、ちょいお二人さん?」
「なーに?」
「なんだ!?」
わたしはからかい混じりに、イヴァンは本気で睨みながら言い合っているところで挟まれた声。
二人同時にジャンを見ればゆっくり肘から上が持ち上がり、その指先が無言で鉄格子の出入り口を示す。
そこには、警棒を手に構えてこちらを見る若い刑務官――ジョシュアの姿。
ってジョシュア!?
騒ぎを起こしたら懲罰房行き→目をつけられる→準備不十分→脱獄失敗。
そんな図式が全員の頭にシンクロしたかどうかは知らないが、わたしたちの行動は早かった。
「お…お前ら…」
さっきまでキャンキャンうるさかったイヴァンは黙ってジャンの上から退き、服を離されたわたしは猫背になって顔が髪で隠れるように俯き同じく無言。
「ケンカか?」
「いやいやいや」
最後に起き上がったジャンが慌ててジョシュアにとりなそうとする。
今わたしに出来るのは、おとなしく黙っていることだけ――ごめんねジャン頑張って!きみがいちばん適任だ!
「そこまでいってねぇよ!見逃してくれるだろ?」
「そりゃ構わないけどね、もめ事は起こすな」
はい、ごめんなさい。
二度とやりません、とは断言できないけど気をつけます。
「イタリア人同士、お身内で仲良くやれよ」
「もちろん!まかせて!オフコ〜ス!」
見慣れない囚人だと突っ込まれないかドキドキしながらジョシュアとジャンの会話を聞いていたら、今回は見逃してくれたのか。
去っていく足跡が聞こえ、彼の気配が遠ざかっていくのが分かりホッと安堵の息を吐いた。
……見つかったのがジョシュアで本当によかった。いい人。