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Fortuna【ラッキードッグ1】

第4章 女神の軌跡(4)


「…自由な女神が、いったい何に誓うと?」


まるで信用ならないと露骨に浮かべて見せられた皮肉げな笑みに、こちらは自然に微笑んで返してみせた。


「そうだね…ジャンを縛る掟(オメルタ)とやらにでも誓いましょうか」


アナタたちにとって”絶対“なんでしょう?
わたしはそんな組織の決まりごとなんて、知るかって感じなんですけどね。

そんなことを考えながら顔を近づけ、その頬にソッと唇で触れて儀式を終える。


「これから毎日、アナタたちに幸運をわけてあげる……ジャンを裏切らないでね」


笑みを崩さないまま脅しともとれる言葉を告げれば、ルキーノの表情が真剣なものに変わる。
――が、すぐに気を取り直すかのようにフッと息を吐くと唇の端を上げて。


「ずいぶん狡猾で男前な女神もいたもんだ…アイツにゃ勿体ない」

「それはドーモ」


狡猾で男前……微妙に嬉しくない。
つい眉をひそめると少しカサついた指の腹で、グイとシワを伸ばされた。


「眉間にシワを寄せるな、クセがついたらどうすんだ」

「…なんでルキーノが気にするの」


さっきの今でこの会話ってどうなの。
今度はわたしがため息を吐き出す番。


「ジャンのとこ戻る」

「あぁ」


ゆっくり腰を上げてベッドから降り、そのまま房の出入り口へ向かう。


「かーわいー金髪のわんわんによろしくな」


思わず足が止まった。
金髪…わんわん……ジャンのことか。
苛立ち混じりにグッと鉄格子をつかんで振り返り、ルキーノを睨む。


「金髪わんちゃんは売約済みです。手を出さないように」

「ハッ、過保護だな。なら、金髪のにゃんにゃんはどうだ?」

「にゃんにゃん?」

「犬を守ろうと必死に毛を逆立ててる、金髪の…」


片手を持ち上げたルキーノの指先がわたしを示した。
――わたしかよ!?


「できるもんならお好きにドーゾ」


棒読みで言い返し、ヒラ…と軽く手を振るとそのまま通路へ出る。
もう背中に声がかかることはなかった。

なんか色々と誤魔化された気がする。
脅しも効いたんだかどうなんだか…しかもアイツ、ルキーノ…。
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