第4章 女神の軌跡(4)
「…どうしたの?」
「お前はジャンの幸運の女神だそうだが……何故ジャンなんだ…なんでアイツを選んだ」
「…そんなこと、言われても」
わたしにだって、わからない。
目が覚めたらすでにジャンの傍にいたんだもの。
元はただの人間だった筈なのに、こんな世界で女神になった理由も……存在意義さえ、自分ではわからない……なにも、知らない。
「もし、俺を選んでくれていれば……ジャンではなく、俺がお前に選ばれていれば……あのとき………」
「ルキーノ…?」
掠れた低い声が、独り言のような呟きが、どこか悲痛な叫びにも聞こえて。
自分がなにか悪いことをしたような、気まずい気持ちになって俯いてしまう。
…なにか、過去にあったのかな……まぁ、マフィアだし…ね。
「…あのさ……わたし、ジャンが大切なんだよね」
「……」
「…ジャンが危ないことするの嫌だし…ジャンに酷いことした相手とか、地獄の底辺に突き落としたくなるし…」
「……」
「ていうか、ジャンが止めなかったらそうするし」
「……恐ろしいな」
小さいけどやっと聞こえた声に思わず、ふふっと口から笑いがこぼれる。
「怖いよねー、こんな女神。ただ…ジャンが笑うと嬉しいの…もっと、笑ってほしい……この先もずっと」
「………」
「ジャンを狙うなら、たとえ死神にだって後悔させてやるし…ジャンが本気で望むことなら、力を全部使い果たしてでも絶対に叶える」
わたしがそう言ったところで、ルキーノは息を吐いた。
…なぁに、ため息ですか?
「とんだ愛の告白だ」
「愛…愛、ねぇ……」
思わず、うーんと首を傾げてしまう。
気持ちが少しは落ちついたのか、ルキーノの手が再びわたしの髪を弄りだす。
「お前は、ジャンのことを愛してるんだろ?愛し子だとか言ってたじゃないか」
「そうなんだけど、ルキーノが言うと違う意味に聞こえるというか」
「違う意味って…愛に違いなんてないだろう」
「んー…ルキーノのは恋愛も含む愛な気がして……わたしのは母性愛?みたいな?わかんないけど、まぁ親愛とか家族愛に近いんじゃないかな」
あと、ペット愛………なんか違うか。
「…男としては見てないのか?」
いきなり何をおっしゃるルキーノさん?
思わぬ方向からの質問に、疚しいことはないのにドキッとしてしまう。