第3章 女神の軌跡(3)
そして昔、ジャンを助ける為にわたしが接触した唯一のマフィア関係者。
「んもぅ。そんなにアタシの傍に居たかったの?ダーリン」
「お前が浮気しないか気が気じゃなかったんだよ、ハニー」
こんな風にジャンのおフザけにも付き合ってくれるから、まぁ良い人の部類に入るのかな……マフィアの中では。
これから先は要注意だけど今は大丈夫。たぶん。
わたしもジャンと「ダーリン(ジャン)」「ハニー(トゥーナ)」とか言って遊びたい。
……絶対してくれないよね、ジャンのケチ。
まだ脱獄の話は持ちかけられてないみたいだし、今のうちに動きやすいよう準備しておこうかな。
ベルナルドがいれば、イヴァンもジャンにおかしな事は出来ないでしょ。
『ジャン、ちょっと散歩してくるね。なにかあったら呼んで?すぐ行くから』
ベルナルドと食堂に向かって歩くジャンにそれだけ言うと、こちらにチラッと目線をよこし小さく頷く様を確認して肩をポンと叩いて別れた。
◇ ◇ ◇
たしか前、備品室で予備の囚人服が置いてあるの見たことあったんだよね。
お邪魔しまーす。
鍵がかかっているだろう閉まったままのドアをすり抜けると、念のため誰もいないのを確認して。
記憶を頼りに棚をゴソゴソ漁っていると……見つけた。
まだ新品の囚人服、上下。ジャンが着ているような前開きシャツじゃなくて、頭からかぶって着るタイプ。
『どうせならお揃いがよかったなぁ……ま、いっか』
贅沢は言うまい。
囚人服を両腕に抱えると再びドアをすり抜けようとして……固まった。
『ヤッバい…』
――出られない。
わたしがいつも着てるワンピースは女神の力で造りだした特別製だけど、人の作った普通の囚人服がドアを…物質をすり抜けるなんて不可能にきまってるじゃないか。
なんでソコ考えなかったんだろう。
とはいえ、方法がまったく無いワケじゃない。
わたしが何かを持ったまま別の場所へポンッと一瞬で転移することはできる。
ただ…今は出来るだけ力を温存しておきたいんだよね。
いつジャンが危険に晒されるかわからないし。
うーん、仕方ない。