第12章 新人
午後の業務に勤しむこと数時間ーーー
「この案件は太宰が適任だろう」
「……薬ねぇ」
国木田に渡された資料を読みながら太宰は頭を掻いた。
「敦、お前も行け」
「はい!」
こうして2人は探偵社を後にした。
「危険薬物ですか」
「こうも異常行動が出ているならねえ。その線が一番有力だろう」
「遺体の検査結果で出た薬物反応、『楽園』って書いてありますけど…なんか凄い名前ですね」
「それが引っ掛かるところなのだよねぇ」
「え?」
敦は資料から眼を離して太宰の方を見る。
「『楽園(パラダイス)』は催婬作用が強いドラッグで、性交渉の際に用いると9割方「ハマる」と云われている依存性も非常に高い薬物なんだよ」
「ああ……それで『楽園』なんですね……」
効能を聞いて、薬の名前に納得してしまう敦。
「それで、何が引っ掛かるんですか?」
太宰がピッと3本指を立てる。
「『楽園』は扱いが難しくてね、覚醒剤や大麻といったメジャーな薬物と違って素人が簡単に使用できるモノではないのが1つ」
そういうと指を一本折り、続ける。
「性交渉による『感度』を上げ、薬の味を覚えさせて、薬の為に性交渉をさせるーーーこの薬は娼婦を造る目的で使用されることが殆どだ」
「っ!」
敦は思わず顔をしかめる。
「故に、この薬は表には中々出てこない。マフィア間、或いはそれに従じる者の間でしか取引が成されないからね。それに加えて先刻も云ったけど扱いが難しいから、密輸も大変でね。かなり高額なのだよ。ほんの数グラムで一般のサラリーマンの月給、半年分は飛ぶ」
「そんな高額なんですか!」
頷きながら2本目の指を折る。
「なんか……太宰さんが納得いかないっていう理由として充分過ぎるんですが…まだあるんですね」
「うん。寧ろ、コレが1番引っ掛かる事だよ。売人は条件さえ合えばブツを売るのは当たり前だ。例えば、いくら高額でも大金を用意できる人間は別に黒社会の人間でなくても可能だ。その気になれば学生だって買える。まあ、そんなに頻繁に買えるものでは無いだろうから次の購買に繋がるかは別だけどね」
「……確かにそうですね」
太宰が未だに1本だけ指を立てたまま説明をする。
「では、何が?」
「効能さ」
「効能?」
漸く凡ての指を折れた太宰は頭の後ろで手を組んだ。