第12章 新人
「太宰さんが作ったんですか?」
「真逆。私が料理すると思うかい?」
「いいえ、全然。じゃあ女性から作ってもらったんですね」
「そうなの。長いこと喧嘩してた最愛の人と漸く仲直り出来てね」
「喧嘩、ですか」
嬉しそうに食べる太宰に、首を傾げる敦。
「如何かしたかい?」
「いえっ!太宰さんが女性と喧嘩って云うのが信じられなくて。泣かせている想像はあるんですけど」
敦の言葉に弁当を目にしたときから何故か固まっていた国木田が、本能だけでウンウンと頷いて同意する。
「酷いなあー敦君も国木田君も。私にだって喧嘩しても絶対に別れたくない好い人ぐらい居るとも!」
「えぇ!?」
「え。何?その反応…流石に一寸、傷付くよ」
「だって太宰さん。何時も違う女の人と歩いてますし」
「……。」
否定出来ずに黙々と食事の手を進める。
「……でも確かに珍しいな。今までこの手の贈り物に手をつけているところを見たことが無い」
やっと現実を受け入れられたのか。
国木田のフリーズが解けて、口を開く。
そう。太宰はモテる。
故に、手作りの弁当やら菓子やらを貰ってくることも少なくない。
然し、それらを自分で食べているところなど一切、見たことが無いのだ。
「まあ、そうだねえ。云われてみれば『あの2人』以外の手作りの食事を口にしたことって、あまり無いかも」
最後の一口を頬張って答える。
「あはは……それでも『2人』なんですね」
「貴様と云う奴はっ……」
「誤解だよ。その内、1人は確かに私の最愛の人だけど、もう1人はこの世で一番嫌いな人なんだから。まあ、料理は美味しいけど」
「「は?」」
弁当箱を片付けながら太宰は嫌そうに語る。
そして、意味不明な内容に疑問符を浮かべている2人をそのままに。
太宰は午後の業務に取り組み出したのだった。