第22章 想歌
おまけ
すよすよと眠っている紬の懐が突然、小刻みに震えだした。
紬はもぞもぞと動いて、その原因を取り出して操作をする。
「ふぁい」
『寝てたの?』
「ん」
『仕事は?』
「ちゅーや」
『そ。傍にいるの?』
「ん……下に」
『え。一寸待って。下!?中也ぁ!?如何云うこと!?』
「治うるさい……」
ムッとして端末を中也に押し付けて再び丸くなる。
その様子をみて溜め息を着き、受け取ってしまった端末を耳に当てた。
「急に大声だすなや。また機嫌損ねンだろーが」
『否、だって下に中也がいるって云うから!』
「膝枕って強請られたンだよ」
『膝枕ぁ!?』
太宰五月蝿い!と怒鳴られている声から察するに事務所内で堂々と敵対組織に電話してきているらしい太宰に呆れる中也。
『狡いー中也ばっかり!』
「手前がしつこく扱ったから紬の機嫌が悪ィんだろーが。ちったあ反省しろよ」
『……共犯のくせに』
切れ味の無い返しを聞いて莫迦なヤツ、と突っ込む。
そのやり取りを聴いていたのか。紬がちょんちょんと中也の服を引っ張る。
「?」
口パクで何かを伝えると紬は直ぐに眠りに戻った。
『聞いてるの?中也』
「ああ、聞いてるよ。手前が代わりに洗濯して、風呂掃除して、買い出し行って料理……はいいや。今云った事をきっちり済ませたら紬に取り合ってやる」
『げ。面倒臭い』
「云っとくが俺は紬が抱えてる仕事の全部と引き換えだからな?手前の方が如何に楽か少しは考えて発言しろよ糞が!」
『…御愁傷様。判った。完璧にこなすから早く帰ってきてよ?中也は別にいいけど』
「阿呆か。一緒じゃねぇと帰れねぇだろ」
『あ。そうだった…はぁ』
それから2、3言交わしてから電話を切った。
「ったく。太宰に甘ぇンだよ!」
「拗ねないの」
「拗ねてねぇよ!」
「「……。」」
この2人には自分達が見えていないのか?
休戦中とはいえ、堂々と敵対組織の者と電話していた事なんて。
中也が機嫌とりの為に紬の仕事を凡て担っていた事なんて。
2人…いや3人が一緒に暮らしているらしい事なんて。
先刻から場所を考えずに私事を……
否。
「「俺達は何も聞いていない」」