第12章 新人
時を同じくして武装探偵社ーーー
「……敦」
「はい?」
国木田は眼鏡を拭いて、掛けて。
もう一度、よく拭いて掛け直してから傍にいた敦に声を掛けた。
「太宰のやつ、一体、如何したんだ?」
「あはは……」
それくらいに探偵社では異常である光景が視界に入ったからだ。
「今日は出勤してからずっと仕事を熟してますね」
「天変地異の前触れか?否、また変なキノコでも喰ったのか?」
「そんなキノコ在るんですかねえ…?」
「在るなら栽培したい。今後のために」
太宰が黙々と仕事をしているのだ。
今まで溜め込んでいた分が、あと少しで凡て片付いてしまうほどの勢いで。
そんな太宰を見て、国木田が驚くのも無理はなかった。
「ああ、敦君。一寸良いかい?」
「あ、はい」
そんな太宰に呼ばれて敦が駆け寄る。
それに国木田も付いていく。
「此の書類だけど此処が抜けているよ。あと此処はもう少し具体的に」
「あ、本当だ。すみません」
渡された書類を受け取って席に戻った敦を見届けて、漸く太宰は国木田の方をみる。
「如何したの?国木田君。急ぎの分なら先刻、机の上に置いておいたけど?」
「……太宰。今日は本当に如何したんだ?真逆、具合が悪いんじゃ…」
「国木田君が私の事を心配するなんて明日は雨かな?」
そう笑いながら云った太宰の目が、壁に掛けてある時計を捉えた。
「あ、もうこんな時間!お昼お昼~♪」
「?」
何時もは面倒臭そうにコンビニの袋を取り出す太宰が、こんなに愉しそうに昼食を取ろうとすることが珍しく、思わずその動作を凝視している国木田。
そして、何故、太宰がこうも上機嫌なのか。
直ぐに悟ったのだ。
取り出したのがコンビニの袋なんかでは無かったから。
「うわぁー美味しそうですね!」
「うふふ。でしょー」
書類を持ってきた敦に嬉しそうに返事をする。