第12章 新人
「有難い配慮ですが、首領。彼女は中也に如何でしょう?」
「は?」
「ほう」
突然の紬の言葉に今まで黙っていた中也が間抜けな声を上げる。
「つい先刻も仕事が多くて苦労してると嘆いてましたし、これ程の美人さんだ。私よりも外商の多い中也と組む方が生む利益も多いかと思いますが」
「手前ッ…!」
「そうか。それもそうだねえ。中原君の仕事量の方が確かに多いもんねえ」
「いやっ、そんな事ありません!」
中也が慌てて云う。
そんな姿を観て紬は笑いを堪えている。
「いやね、本当は私も中原君が適任だと思ったのだよ?でも、彼女が紬君の秘書を希望したものだから」
「へぇー。それは光栄なことですが…その理由を伺っても?」
「理由というほどではありませんが、勝手ながら尊敬しておりまして」
「うーん。中也には勿体ない気がしてきた」
「如何いう意味だぁ?」
「そうだよねえー。中也なんて乱暴だしチビっちゃいし」
「今、身長なんざ関係無ェだろうが……」
紬の言葉にワナワナと震えている中也。
森の前なので必死に怒りを押さえている様だ。
「然し、それならば矢張り中也に付いた方が善いね」
「え?」
紬はニコッと笑って云う。
「私が動くとき、大抵は中也と共に行動する。私に怪我が無いのは中也のお陰なのだよ」
「……。」
その言葉を聞いて女が中也の方を見るが、中也はフイッと顔を反らす。
「私は我が身も守れないからね。先ずは中也の傍に居て『此の位置』が今までよりも何れだけ危険度が増すかを見極めた方が善い。首領にこうも気に留められているんだから、直ぐに幹部にならずとも上席に上がる可能性だって無くはない。君がその時のために学びたいというならば、だけど」
紬の言葉に納得したのか。
女は拳を握り、意を決した顔で首領の方を向いた。
「申し訳ありません首領。先刻、首領が仰った通りに中原幹部の秘書をさせて頂けないでしょうか!」
バッと一礼しながら云う。
森はニコニコ笑いながら、うんうんと頷いた。
「じゃあ宜しく頼むよ、中原君」
「判りました」
中也が一礼したのを合図に3人は揃って首領の部屋を後にした。