第12章 新人
云いたいことを云い終わったのか。
紬は漸く本題に入った。
「で?早朝から何の仕事だったの?」
「ああ…『例』のヤクの取引と思われる現場を押さえにな」
「ふーん。で、結果は?」
「…白」
「無駄足?それとも違うブツ?」
「後者」
「モノは?」
「『楽園』」
「また随分と珍しい種を」
「ああ。しかも買取り人は一般人の餓鬼ときた。『ネットで見て、興味が湧いたから』だとよ」
「ふーん」
「中原幹部!太宰幹部も丁度良いところに!」
紬が相槌を打ったのと同じタイミングで2人を呼び止める声が掛かった。
新人だろうか。2人は足を止めて同い年程の男の方を見やった。
「首領がお呼びです」
「あ?俺は今、報告に行ったばかりだぞ?」
「私も用なんか無いけど」
「いやっ!首領は太宰幹部に用があるようでして、その為に中原幹部を呼んできて欲しいと……仰せ遣いまして……」
「「……。」」
云いにくそうに言葉を紡いだ男から視線を外し、睨み合う双黒。
「ほらみろ。勝手に手前ェの面倒係にされちまってるんだよ。判るかァ!?俺の苦労が!」
「冗談でしょ。何を如何すれば中也が私の面倒を見るなんて立場になるんだい?普通、反対でしょ?は・ん・た・い!」
「何が反対だ!俺が手前ェに面倒みてもらったことなんかあったか!?あぁ!?」
「いっぱい有るでしょ!酒の飲み過ぎで手に終えなくなって困り果てた部下達に呼び出された回数なんて、この指の数じゃあ足りないくらいだよ!」
「それは仕事に関係無ェだろーが!」
ヒュッ!!
素早く回し蹴りを繰り出しながら叫ぶ中也。
その攻撃をヒラリと交わして頭に手を当てる紬。
「はあ、やだやだ。こんなに単純な中也に管理されてるなんて心外だ。やる気無くしたから帰ろう」
「元々、遣る気なんざ持ち合わせちゃいねェだろーが手前は!って、一寸待て!本気で帰ろうとすんじゃねぇよ!」
「痛ぁ!!離し給えよ!行きたくないってばあ!」
ガシッと紬の首根っこを掴むことに成功した中也は、じたばたと抵抗する紬を引き摺って!首領がいる部屋へ向かって歩き出した。
「……。」
静けさが戻った通路。
伝令係の男は「中原幹部が一緒で良かった」と安堵の息を吐いて、自分の持ち場へと戻ったのだった。