第12章 新人
紬は中也と並んで歩く時、大抵『右隣』に居ることが多い。
序でに云うならば兄と歩く時は殆どの場合は左隣。
この位置取りが当たり前の時期があったのだ。
犬猿の仲と云われていても可笑しくないほどに仲が悪い兄と中也だ。紬のこの位置は必然のものである。
故に、コレを利用する機会が2人には度々あった。
「まあ、感謝はしておくよ」
紬が手をおろす。
正面からは気付かれにくい位置に在るモノ――
『中也だけ』が気付いた、太宰が付けただろう赤い印をもう一度だけ見て、中也は溜め息を着いた。
「はい、これ」
「………………おう。」
そして、渡されたものを受け取って素早く仕舞う。
「ちゃんと閉めてきてあげたんだから感謝し給えよ」
「それくらい当たり前だろーが」
「当たり前ねえ。感謝はするけど、帳消し出来るほどに散々な目にもあったのに」
「あ゙?」
ギロリと睨むと今度は右首筋をトントンと指でつつく紬。
「『コレ』のせいで治が全然、寝せてくれなかった」
「否、只の口実だろソレは」
何も無い…ように見えるが、
よーく見ればうっすらと赤みを帯びている気もする程度のソレを指しながら口を尖らせて不満を云う紬に中也は呆れながら返事をした。
その程度のモノが暗闇で見えるわけが、無い。
むーっと唸りながらも、その通りだと納得したのか。
紬は小言だけ中也に云い続けたのだった。