第12章 新人
朝食をとり、寝ている間に乾燥まで済んでいた衣類に着替えて2人は仲良く部屋を後にした。
紬はポケットからカードを取り出して施錠する。
「……。」
その様子を太宰はジーッと見ていた。
「何だい?」
「いや。ピッキング出来ない世の中に進化しつつあるなあ、と」
「そうだねえ。しかし、所詮はデータの塊だ。壊そうと思えば如何様にもなるさ」
カードをポケットに入れて、どこかソワソワしている太宰の隣に並ぶ。
昇降機に乗り込んだ所で太宰がチラッと紬の方を見た。
「……返した方がいい?」
その理由を述べた兄を見て、クスクス笑い出す紬。
昨日、部屋に侵入した際に用いたカード。
―――紅葉のメモと一緒に入っていた『何か』は、紛れもなく紬の部屋の予備鍵だった。
「佳いよ。元々、治にあげる心算だったから」
「!」
そう云って、仕舞ったばかりのカードをもう一度取り出す。
手に持っているカードは3枚。
チンッ
停止を告げる音とともに口を開いた扉に向かって歩き出す紬。
それに太宰も付いていく。
「何処行くの?」
疑問に思うのも無理はない。
着いた先はこのマンションのエントランスでは無かったのだ。
「不用心に鍵を開けたまま出勤している相棒の部屋だよ」
「げっ。なんでそんなこと紬が…………。あ。…最悪………そういうことか」
理由を聞く前に、答えに行き着いてしまったのだろう。
ガクッと項垂れる太宰を見て、再びクスクス笑う紬。
中也の部屋の前に着き、ドアノブに手を掛けて引っ張る。
キィ。
予想通りに何の抵抗無く開いた扉を閉めて紬はカードを翳した。
ピッと音を立てて鍵が閉まったことを確認して再び昇降機に乗り込む。