第11章 修復
「私は紬も一緒に連れて行く心算だった」
「私は其方側に行く気は無いよ」
「……そう云われるのが怖くて本当は私も会いたくなかったのだろうね」
そう云って再び抱き締める。
「『一緒に居られない』と『一緒に居たくない』では全く意味が異なると云うのに………紬に告げられる言葉が後者だったらって思ったら――……」
ぎゅーっと再び力を込める太宰。
だが、先刻と違って紬は文句を云わずに。
更に自らの腕を太宰の背に回した。
「莫迦だね、治は。折角、私と云う錘を棄てられたのに」
「未だそんなこと云ってるの?何時も云ってるでしょ。私は紬の『異能』に縛られて傍に居る訳じゃ無いって」
「……。」
今度は太宰の方が少し不機嫌な声で云ったため紬が黙り込む。
「紬」
「……何だい」
「離れてみて判ったよ。私は矢張り紬の傍に居たい」
「!」
紬の脳裡に、先ほど旧友の墓の前で話した光景が蘇る。
「しかし……私は紬と同じ生き方は…出来ない―――」
紬は何も云えなかった。
「こんなにも一緒に居たいのに………」
考えている事は矢張り『同じ』なのだ。
先刻、自身も幾らか考えた。
しかし、答えが出ることはなかった。
正確には、たった1つ。
―――それだけは駄目だと自らに言い聞かせる程の『答え』しか出なかった。
ところが。
「だから―――」
兄は違った。
「それでも佳いよ」
兄、太宰治は
「居場所なんて違っても構わないから」
紬が切り捨てたその唯一の答えを
「―――もう二度と私から離れないで」
何の迷いも無しに紬に告げたのだった。