第11章 修復
暗闇の中。
夜眼が利いているとはいえ、俯いて。
もう少し加えて云えば紬の首元に埋める位置に相手の顔があるせいで、その表情を全く窺い知ることが出来ない。
紬は続けた。
「私は人形に構っているほど暇では無いのだけど」
「……。」
それでも相手は答えること無く。
―――紬に痛いと云われないように配慮しながら、更に抱き締めた。
「離して」
「………やだ」
「こんな格好だ。寒い」
「………こうすれば温かいでしょ」
「だから痛いってば」
「………御免」
漸く相手が返事をし始める。
「…………何で会いに来たの……治」
ポツリ。
先程までの声の音量とは比べ物にならないほど消え入りそうな声でそう云うと全く動かなかった紬が漸く動いた。
抱き締めていた相手。
自分の片割れである太宰治に、力を抜いて身を委ねる。
「駄目だったのかい?」
抱き締めていた腕の片方を解き、その手で紬の頭を撫でる。
「………会いたくなかった」
「うん」
「………折角……自由になれたのに……」
「……。」
矢っ張り、か。
太宰は苦笑した。
久方振りに会った紬に拒絶されて最初に抱いたのは『絶望』だった。
あの日、遠出していた紬を置いて黙って此処を去ってしまったせいで、自分を恨んでいるのだと思った。
でも、違ったのだ。
久しぶりに再会した日に『拒絶』していることを示すために、今まで一切しなかった『兄』呼ばわりした。
しかし、それは本心では無かった。
だから、先刻会った時も。
そして、今も。
今まで通りに『治』と呼んでしまっている。
4年もの間、全力で太宰と接触することを避けていたのも――――
「会えば……光を見失ってしまうかもしれないのに………」
「紬……」
紬の存在に左右されず、『マフィア』を抜けて陽の当たる場所で生きることを選んだと云うのに。
紬の存在に左右されて、元いた闇の世界に戻ってきてしまうかも知れない―――。
紬は自覚していたのだ。
太宰紬にとって太宰治の存在が強大であるように
太宰治にとっても太宰紬の存在は強大であることを。