第11章 修復
途中、24時間営業のスーパーに寄って向かった先―――マンションからそう遠くない場所に紬の目的地はあった。
直ぐに済むからとタクシーに待機してもらい、歩いていく。
横浜の街を見下ろす丘の上、海の見える墓地。
―――旧友だった織田作之助が眠る場所だ。
目的の墓に途中で買った花を供えて、紬は話し始めた。
「久し振り」
夜の風が紬の頬を撫でる。
静かで何処か淋しそうな紬の心境を表すかのように、少し冷たい。
「君に生きる道を示された治と、4年振りに会ったんだ」
勿論、返事は無い。
「離れてみて判ったよ。私は矢っ張り治の傍に居たい。しかし……。私は治と同じ生き方は…出来ない―――」
紬はその場にしゃがみこんだ。
「こんなにも一緒に居たいのに………」
絞り出した様な声で呟いた時だった。
ふわり。
「…………?」
温かい風が紬の頬を撫でた――――気がした。
「……織田作………?」
紬はのろりと立ち上がり、辺りを見渡す。
そして、突然『答え』が浮かんだ。
けれどそれは―――余りにも自分勝手な考えで。
「有難う、織田作。でも、それは……きっと駄目だよ」
フルフルと首を横に振って紬は苦笑した。
「弱音なんて、らしくないことしたかな」
紬は「また来るよ」と挨拶を済ませて待たせているタクシーの元へと戻っていった。
その後ろ姿が見えなくなるまで。
―――見えない『何か』は紬を見送っていた。