第11章 修復
中也を送って昇降機前まで戻ってきた紬は再びその機械を利用すべく釦を押した。
こんな真夜中に、そう使う訳も無い機械は紬が戻ってくるのを待っていたかのように直ぐに扉を開く。
手に握っているのは先刻、玄関を開けたカードキー。
しかも、同じカードが3枚重なってあった。
「………夜中に出歩くな、ねえ」
目的の階を押して、紬は中也のせいでボサボサになってしまっている留めを解く。
中也が紬を女性扱いする―――。
荒々しいが行動でその様な行為があっても、それらしい事を口に表すなんて殆ど無いのだ。
紬は無言で3枚のカードキーを見つめ、ポケットに仕舞った。
と、同タイミングで『チン』と到着を告げる音と共に扉が開く。
中也の部屋の数階上に、紬の部屋はあった。
『同じ』マフィアで、『同じ』役職。
その都合から考えれば同じ場所に部屋を借りることは本人たちに話し合いが無くとも一致してしまう事もあるのだ。
現に、2人とも指の数では足りない程に家を所持しているが、この様に階違いのセーフハウスが複数存在する。
因みに、此のセーフハウスが被っている理由は『本部に近いから』だ。
中也と紬の付き合いは長い。
幼少の頃から『3人』で居ることは当たり前だった。
そのせいか仕事でコンビを組む事も次第に増えていったのだ。
太宰兄妹の何方と中也が動けば『双黒』
太宰兄妹が動けば『対黒』と恐れられる程にまで名を馳せる存在になる程に―――。
太宰が居なくなった今でも紬と中也は『相棒』のままだ。
それ故か。
紬は中也の。
中也は紬の。
お互いのセーフハウス凡ての鍵を握り合っている。
なので先程カードキーの内、1枚は中也の家の、もう1枚は紬自身の家のものだ。
そして。
もう1枚あったカードキーは…………。
『あんまり夜中に出歩くな』
紬が居るのはマンションのエントランスだった。
―――同じマンションに部屋があると云うのに。
紬は中也の言い付けなど守らずに目の前に停車していたタクシーに乗り込んだ。