第11章 修復
ポートマフィアの本部からそう離れていない高級マンション。
最上階ではないが、上から数えた方が遥かに早い階数の通路を二人は小声で話しながら歩いていた。
「……いい加減、手を離せよ。独りで歩けるっつーの」
「冗談は寝言だけにしてよ。こんな真夜中によろけて扉にぶつかったら近所迷惑でしょ」
「もう寝てんだろ、多分」
「起きてることを想定しなよ。そして、立腹して文句の1つでも云ってきた日には喧嘩するでしょ、今の君なら」
「……。」
否定が出来ずに押し黙る。
普通に歩けることを証明してやろうと、紬の肩に回っている腕を解こうと込めた力を抜いた。
扉の前に辿り着くが中也が鍵を開ける気配は無かった。
紬は中也の腕を解放する。
そして、自らの外套のポケットに手を入れてカードキーを取り出した。
ピッと音を立てて解錠された扉を開けて中也を入れる。
「泊まるか?」
玄関に入ると中也が紬に声を掛けた。
「嫌だよ。明日早いんでしょ?私はダラダラしたい」
「そうかよ」
ヒラヒラと手を振って別れを済ませる紬。
「……あんまり夜中に出歩くなよ」
「え。本気で云ってるのかい?」
「悪ィかよ」
「……。」
酔っているからなのか。本気で心配なのか。
冗談だと思って返した言葉に対して真剣に返されて紬は黙る。
何方の意があるのか。
その答えは出なかった。
しかし、何方にせよ自身の心配を仄めかす発言には変わらない。
紬は少し笑うと一本指を立てた。
「珍しく女性扱いされたから今日は大人しく此のまま家に帰るよ」
「おう。そうしろ」
紬の頭を乱暴に撫でて中也は扉を閉めた。
鍵を閉めてコツコツ……と遠ざかる足音が聴こえなくなるまで扉の前から動かず、聴こえなくなったと同時にその場でしゃがみこんで項垂れる。
「姐さん、恨みますよ」
柄にもなく紬を女性扱いした意図が本人にバレた時点で、自身が被る被害が確定するのだ。
中也はチッと舌打ちしながら靴を脱ぎ始める。
何をされるか。
絶対、碌なことないのは容易に想像できた。
しかし、だ。
「偶には佳いか」
去り際にみせた紬の笑顔を思い出し、中也は部屋に上がった。