第10章 終局
あれから数時間―――
探偵社では新入社員である『泉鏡花』の歓迎会が行われた。大きな戦いも無事に終わった祝いも兼ねているため大きなパーティーとなっていた。
そこに参加せずに。
探偵社員、太宰治はとある美術館に来ていた。
大きな絵画の前に腰掛け、その絵を見上げながら口を開いた。
「変な絵だねぇ」
「絵画を理解するには齢の助けが要る」
たった今まで独りだった場所。
太宰の隣に腰掛けた初老の男性が太宰に返事した。
ポートマフィア『黒蜥蜴』―――広津柳浪
「広津さん。例の件助かったよ」
「あの程度で善かったのかね?私は白鯨潜入作戦を樋口君に漏らしただけだが」
「彼女が知れば芥川君に伝わる。芥川君が知れば必ず単身で乗り込んで来る。予想通りだ」
「そうまでして芥川君と虎の少年を引き合わせた理由は何かね?」
「確かめたかったからさ」
今まで笑っていた太宰の顔が真剣なものになる。
「芥川君は単独でも十分破壊的だけど本来は中・後衛で真価を発揮する異能者だ。敦君のように速度と根性骨を持つ前衛を補強してこそね」
「何時から此の状況を目指していた?」
太宰は目を伏せる。
「敦君と最初に会った時から。新しい世代の双黒が必要だ。間もなく来る"本当の災厄"に備える為にね」
広津は黙って聞いている。
太宰は続けた。
「此処から先の展開は私にも見えない。けれど奴は既に動いている筈だ。嘗て私が一度だけ会ったあの"魔人"は必ず―――」
「……。」
矢張り、凡て見えていたのか。
『彼女』と同じ様に―――――――
広津は太宰から視線を絵画の方へ戻した。
「そう云えば……大丈夫かい?」
太宰が何かを思い出したと云わんばかりにハッする。
「何がかね?」
「………。」
今までの表情とは変わって、眉間に皺を寄せている。
本気で心配をしている様子の太宰に疑問符を浮かべる広津。